日本は長い歴史を通じて、移民や在外定住を選択する人々が絶えない国です。外務省の統計によると、2021年時点で約136万人の日本人が海外に在留登録しており、その背景には経済的機会の追求、国際結婚、文化への憧れ、教育や起業を目的とした移住など、多様な理由があります。では、日本人が最も多く移住・定住する国はどこか――地域別の特徴や歴史的背景を踏まえながら、在留人数の上位国を分析してみよう。
第1位:アメリカ合衆国(約43万人)
圧倒的なトップはアメリカで、全在外日本人の約3割を占めます。特にカリフォルニア州やハワイ州には大規模な日系コミュニティが存在し、戦前からの移民の歴史に加え、近年はIT産業や学術研究を目的とした専門職の移住が増加しています。ロサンゼルスの「リトルトーキョー」やサンフランシスコベイエリアの日本人学校は、文化的拠点としても機能しています。
第2位:中国(約10万人)
経済成長が著しい中国には、ビジネスチャンスを求める駐在員や起業家、日本語教育に携わる人々が集中しています。上海や大連、深センなど日系企業の進出先都市を中心に、日本人向けの生活インフラも整備され、「現地での定住」というより「長期滞在」の傾向が強い点が特徴です。
第3位:オーストラリア(約9.8万人)
ワーキングホリデーや留学を経て永住を選ぶ若年層が急増しています。穏やかな気候や高い生活水準に加え、2020年代以降は日本との雇用ミスマッチを回避しようとする技術職の移住者も目立ちます。シドニーやメルボルンでは、日本人カフェや文化交流イベントが日常的に開催され、コミュニティの活発さが窺えます。
第4位:ブラジル(約7.2万人)
1908年の「笠戸丸」移民に端を発する日系ブラジル人の歴史は、約200万人の子孫を誇ります。サンパウロを中心に「リベルダーデ地区」などの日本人街が発展し、現地社会との深い融合が進んでいます。ただし、近年は経済低迷の影響で「逆移民」と呼ばれる日本への帰国者が増加し、純粋な「移住先」としての地位はやや低下傾向にあります。
第5位:カナダ(約7万人)
自然環境の良さと移民受け入れ政策の寛容さが魅力で、バンクーバーやトロントではIT技術者や留学生が増加中です。永住権取得の相対的な容易さも後押しし、英語圏ながら日本語教育機関や日系企業の進出も支援要因となっています。
その他の注目国
タイ(約8.5万人)やイギリス(約6.6万人)、ドイツ(約4.5万人)も上位にランクインしています。タイはリタイアメント層や長期滞在者が温暖な気候を求めて移住し、東南アジアにおける日本人コミュニティの拠点となっています。
このランキングから浮かび上がるのは、経済合理性だけでなく、文化的親和性や歴史的紐帯が移住先選びに影響している点です。特に若い世代は「働き方」や「ライフスタイル」を重視する傾向が強く、従来の「終身雇用モデル」から離脱する選択肢として、海外移住が現実味を帯びつつあります。一方、国境を越えた人の流れは、日本社会の課題——少子高齢化や労働力不足——を映す鏡とも言えるでしょう。