日本は今、少子高齢化と労働力不足という未曾有の課題に直面している。総務省の推計によれば、2060年までに生産年齢人口が現在の約60%まで減少すると予測されており、介護・医療・建設業界を中心に深刻な人手不足が続いている。こうした状況を受け、政府は2019年に新たな在留資格「特定技能」を創設し、建設や農業分野など14業種で外国人労働者の受け入れを拡大した。法務省の統計では、2023年末時点で在留外国人数が過去最高の322万人に達し、10年間で約80万人増加している。
しかし、現実は単なる「労働力補充」を超えた課題を抱えている。長年「単一民族国家」を自認してきた日本社会において、異文化共生は想像以上に複雑だ。愛知県豊田市の自動車部品工場では、技能実習生が母国語の教育を受けられず孤立する事例が報告され、新潟県の農業地域では外国人児童の日本語学級が不足している。国立国語研究所の調査では、日本語教室が必要な外国籍児童のうち実際に支援を受けられているのはわずか43%に留まる。
雇用現場では文化摩擦が日常的に発生している。某飲食チェーンで働くベトナム人従業員は「遅刻したら給料から罰金を引かれる」と驚きを隠さない。インドネシア人技術者の中には、日本の「暗黙の了解」を理解できずプロジェクトが停滞するケースも少なくない。こうした状況を改善するため、経済産業省は2024年度から多言語対応の就労ガイドライン作成に乗り出したが、全国展開には時間がかかる見通しだ。
興味深いことに、地方都市で新たな動きが芽吹いている。北海道旭川市では地域住民が自主的に日本語教室を運営し、季節ごとの祭りに外国人参加者を招待している。大阪の商工会議所は異文化マネジメント講座を企業向けに開講し、受講企業からは「社内コミュニケーションが改善した」との声が上がる。国際交流基金の調査によると、日本在住外国人の78%が「地域社会との交流に前向き」と回答しており、双方向の適応努力が進み始めている。
移民政策の将来像を考える際、ドイツの統合課程（Integrationskurs）やカナダのポイント制の事例が参考になる。日本のある地方自治体の担当者は「単なる労働者ではなく、共に地域を築くパートナーとして受け入れる視点が必要だ」と指摘する。教育現場では、神奈川県が小中学校の国際学級を3年間で2倍に増やす方針を打ち出すなど、草の根レベルの変化が進行中だ。
この国の未来は、多様性を包摂する力にかかっている。コンビニのレジで流暢な日本語を話すネパール人店員、病院で母国語の翻訳機を使いながら働くフィリピン人看護師、地元の消防団で活躍するブラジル人青年——これらの存在が日常風景となる日が来るだろうか。移民受け入れは経済政策を超え、日本人のアイデンティティそのものを問う文明論的課題と言える。少子化問題が解決しない限り、このテーマから目を背けることは許されない。私たちは今、歴史の転換点に立っている。
