地中海の真ん中に浮かぶ小さな島国マルタは、三つの有人島と無数の岩礁から成り立っています。ユネスコ世界遺産に登録された首都ヴァレッタの石畳の道を歩くと、騎士団時代の紋章が彫られた門扉や、蜂蜜色の石灰岩で築かれたバロック建築が連なり、16世紀の空気がいまでも息づいています。

特に目を引くのが、紀元前3600年頃に造られたとされる地下墳墓ハイポジウム・タ・シージャ。3層構造の迷宮には7000体以上の遺骨が発見され、赤褐色の壁画には原始的な生命観が刻まれています。マルタストーンと呼ばれる巨大石材を使った巨石神殿群は、エジプトのピラミッドより古いといわれるほどで、円形の祭壇からは冬至の日の光が正確に差し込む仕組みになっています。
島の食文化を彩るパスティッツィは、サクサクのフィロ生地にリコッタチーズを詰めた国民的軽食。港町マルサシュロックで朝市が立つ日には、地元のおばちゃんたちが鉄板の上でツナのソテーを仕込みながら、「マレーヤ!」(こんにちは)と明るく声をかけあいます。青緑に輝く海に浮かぶコンティネーション教会のドームが、紺碧の空に吸い込まれそうな夕暮れ時、崖の上から眺める夕日はまるで金色のリボンが波間を縫うようです。
最新の観光スポットとして注目を集めているブルーグロットでは、太陽光が海底の石灰岩に反射して洞窟全体が瑠璃色に染まります。透明度の高い水中を泳ぐ熱帯魚の群れは、この島が「地中海の宝石箱」と呼ばれる所以でしょう。騎士団長の宮殿で毎秋開催されるバロック音楽祭では、300年前の楽器の音色が石壁に反響し、タイムスリップしたような感覚に陥ります。